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Filed under: texts(normal) — gnax @ 11th January, 2006 03:29 Comments Off

「ふっ…さ、むいっ…うううっ、たたひ…ま」
「お帰り、ヒート。うわあ、肩の雪が凍ってる。傘はどうしたの」
「そ、そと、すげえ、ゆ、ゆき…かさ、さ、させない、くらい…へっくちっ!」
ヒートがぷるぷる震えると、凍りかけた髪から細かな氷が飛び散った。鼻や耳は痛そうなくらい赤い。

「唇も真っ青じゃない」
カチカチと歯が鳴っているのがよく判る。
「は、はう、あって、うきが、すこくて」
「ほら、コート脱いで」
「さむ、くて、しゃへれねえ、へ、へっく!」
ヒートが急いで部屋に入ろうとしたので、僕は慌てて彼の手を握った。案の定、氷のように冷たい。
「待って。今暖房に直接当たると凍傷になるかも」
両手でヒートの頬を包み、蒼い唇に口付ける。
人の身体って、こんなに冷たくなるものなんだなあ…。別の生き物とキスしてるみたい。雪の女王ってこんな感じかな。
「…ん…」
ヒートはぎゅうっと僕に抱きついて、暖を取っている。
「ったけえ…。…お前…服着てんのに…何でこんなあっついんだ…」
「ヒートが冷たいんだよ」
「サーフ…熱でも、出してねえか…?」
「僕は平熱だよ。君の身体が慣れたら部屋に入ろう」
「ん…」
「それにしても、受験シーズンならともかく、こんな時期の家庭教師なんて休んでしまえばいいのに」
「すげえ時給いいんだよ…。昼飯も出してくれるし…」
「僕が作るサンドウィッチじゃ不満かい?」
「そ、そういうんじゃなくて…」
「冗談だよ。ほら、だいぶ暖まったから行こうか」
僕はヒートをベッドに座らせて、狭いキッチンへ立った。中古の戸棚の奥に、彼が愛飲しているココアミックスがある筈だ…匂いからして甘そうなアレが…。
僕はポットの電源を入れてから、匂いの元凶を取り出した。
…ミルクチョコレート&ヴァニラと書かれた黄色い箱からは、ぞっとする人工香料の匂いが漂っている。

我慢してマグカップにそれを一袋分投入してから、僕はもう一つの甘い匂いに気がついた。
棚からまだヴァニラの匂いが感じられる。

僕が手に取ったのは、ぐにゃりとした感触が不気味なマシュマロの包みだった。巨大なビニル袋にみっちり詰まったそれはどう見てもお徳用パッケージで、しかも密封されている訳でもないので、マシュマロ臭が戸棚いっぱいに充満している。

いつの間にこんな恐ろしいものを買ったんだ…。

お湯が沸くまで、僕は呆然と袋を見詰めてしまった。クッキーやクラッカーもあるし、まさかS’moresでも作って食べる気だったのかな…。この量じゃ、来年まで持ちそうだ。

僕の持ってきたコーヒーまでマシュマロの匂いになるのは勘弁して欲しい…。明日雪が止んだら、ダブルジッパーのZiplocを買わなくては。
僕はマシュマロを何個か取り出して、ナイフで小さく切ってマグカップに放り込んだ。

「うう、足がまだ痺れてるみてえだ…」
「大丈夫?」
「凍傷ってほどじゃねえぜ?まだ冷えてるだけだ」
「じゃあ、これ飲んであったまって…」
僕はマグカップをヒートに手渡す。ヒートは毛布にくるまって、みのむしみたいにベッドの端で丸まっていた。
「…あ、ありがとな…。…っあちっ!!」
「慌てないの」
「あ…!マシュマロ入りだ…」
子供みたいに瞳をキラキラさせて、ヒートはココアを覗き込んでいる。
「ヒートはそういうの好きそうだと思って、アレンジしてみたんだけど、どう?」
「…うまい。なんか、いいな…雪みたいで」
「マシュマロの雪なら寒くないのにねえ」
「マシュマロだったら…積もった雪が全部食える」
うっ。
町中がマシュマロだと想像しただけで、胸が焼けそうだ。
「そういうのが好きなら、君がバイトから帰る日にはいつでも作ってあげるよ」
「…うん。…なんか…妙に優しいな」
「優しくちゃいけないかい?」
「…いや…その…なんかワケでもあるのかと…」
「何でも人を疑うものじゃないよ。まあ、君が冷たすぎると、触り心地が良くないしね」
もう一度キスをしたら、その唇は十分に温まっていた。
…ものすごく甘かったけど。

 

 

 

 

 

 

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