緑は俺の色だ。シエロがそう教えてくれた。緑がどんな色なのか、アルジラが鏡を見せて教えてくれた。それは病院の色なのだと。
「…ゲイル、ゲイル、ちょっと」
シエロは違うと言った。それは外の色で、自然の色なのだと言った。
外は…
しいて言えば、砂だ。
「も、もー!ゲイル!こら!」
砂はむしろ灰褐色ではないのか。それならサーフの方がよほど。
「俺ハゲるって!重い!」
ではヒートはどうなのだ。彼は血の色だ。外で頻繁に見かける色ではないか。砂と違って保護色にはならんだろうが…。
「おーきーろー!このばか参謀っ!」
俺の色はこの世のどこにもない…もっとも不自然で、気味の悪い色だ。
「も、もーガマンの限界っ!」
「ぐおおっ!」
と、頭部に衝撃が。
「起きたぁ…。も、いい加減俺の髪を枕にするのは勘弁してくれよー。マジで抜けるから」
頭上から、シエロが、俺の顔を覗きこんでいる…。
「あ、ああ…悪い。痛かったか」
腕を伸ばして青い毛髪の根元をさすると、シエロは何故か目を丸くして、頬を赤らめて何度か頭をぶるぶると振った。
「わっ。いや別にっ。前みたく、握られるよりはいいから」
「ああ…あれは、いいものだ。心が安らぐ」
「お前の安眠は俺の不眠なんだってば~。アレやられると、寝返り打てなくて超困る」
唇を尖らせながら、シエロは器用に自らの髪を束ね、編んでゆく。
「それは問題だ。何か解決策を考えなければ」
「何かって。俺に寝るなとかじゃないよな?」
俺は少し考え、そしてある結論にたどり着いた。
「…。その髪を、ひとふさ、貰う、…というのは」
シエロは、口をぽかっと開けて俺の顔を見て、そして首を振った。
「それは、いやだ」
「いい妥協案だと思うのだが」
「いやだ。そんな。向こう行ったらもう帰って来れないから髪でも、みたいな」
青い瞳がぎゅっと閉じられる。睫毛が震えている。
「理解不能だ。向こうとは、具体的に何なのだ」
「知らない」
「ここではない場所だとすれば、消去法で…ニルヴァーナ?」
「…」
「お前が言ったことだろう。シエロ。意味が判らない」
「知らないものは、知らないから」
シエロはそっぽを向いている。
理由は不明だが、俺は彼の気分を悪化させるような発言をしたらしい。
「その、シエロ」
「ん」
「悪かった。やはり、お前がついていた方がいい。その髪はお前の付属物に過ぎぬ。お前はお前であって髪ではない」
「…ぶっ」
こちらに顔を向けた、かと思ったら、唾が飛んできた。
「ちょ、ぎゃははははは!なにそれっ!」
「…?」
「付属物、かよ!それ、カッコつけたつもりなんだよなっ?」
「俺は、そういう意図は」
「あーもー!ゲイルってそうだよな。いつもそう!「理解不能だ」とか!ほんとゲイルが理解不能だよっ!」
シエロは腕組みをして、似ていない俺の口真似をして、ひとしきり笑った後に抱きついてきた。
「俺も、みんなと一緒がいい。髪だけじゃなくって」
そこで「みんな」と言うかっ!?
…いや、俺は何を疑問に思っているのだ。それでいいのではないか。
「なに、ゲイル変な顔」
「…これが俺の地の顔だ」
「ふうん?寝てるときはけっこーかわいい顔なのにな。俺お気に入りなんだけど、ゲイルの寝顔」
「そうか、ならば、ずっと寝ておくか?」
「うそうそ、なんでそこでそう返すかなー。変な顔でも好きだって。ゲイルなんだし」
「…理に叶っているが腑に落ちないことを言うな、お前は…」
「まーた、わかんないこと言う。寝惚けてるんじゃね?」
シエロが俺の頭を撫でる。
言われて見れば、まだかすかに眠い。
「って、マジで寝るか?…いっか。俺ももうちょいここにいるかなっ」
ベッドのスプリングがきしみ、顔の横に、固く縛られた青い髪が、視界に入った。
ああ、考えてみれば、シエロもまた、俺と同じ不自然な色をしている。
…いや…しかし、どこかで見たような、記憶もある。
多分、外だ。
どこかの…トライブカラーだろうか…。
「おやすみ~、ゲイル」
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