いくら押さえつけても跳ね返る、タチの悪い癖毛と、摘んだように小さな鼻先と、幼さの残るふっくらとした唇。
ベッドサイドに腰掛けた俺は、それらが何度も足下でぎこちなく動くのを、飽きもせずじっと眺めていた。
「…駄目だな。もっと舌を使え」
「う…ぐ…んぷ…」
「だから、歯は立てるな。お前は一つ覚えると一つ忘れるタイプか?」
苗木の丸い目がキッと上目遣いになり、彼はペニスから口を離した。
「ん…こ、こんな事…言われたからってすぐ出来ない…」
苗木は手の甲で口を拭う。本当に困惑した表情で。
「違うな。命令を論理立てて記憶し正確に実行する能力に欠けているだけだ。少しは想像力を働かせろ」
「どう言われても…こんなの無理だし」
「なら、慣れろ。お前の祖末な脳でも同じ行動を繰り返せば動物的に身体で記憶するぞ?」
「繰り返…って、今日だけの話じゃないのか?部屋、帰る」
「そうか、残念だ。全面協力の件は無しだな。帰れ」
「…」
立ち上がろうとした小柄な男は、俺の言葉を聞いて硬直する。
「物事には全て見返りがある。何もお前にただ働きさせようとは言っていない」
「そういう、その、見返りとか、なんか…イヤな響きだ…」
「持ちつ持たれつ、あるいはギブ&テイク、とでも言った方が耳障りが良いか?」
「…こっちはギブばっかりだ!」
「ほう、報酬がない事を疑っているという事か?」
「疑ってるとかじゃなくて…何が持ちつ持たれつなのかボクには理解出来ない…っ!」
「なるほど、判った。つまりお前は、先にそれなりの見返りを提示されなければ動けない、と言っているのだな」
中途半端な中腰でおろおろしている苗木の胸元を掴み、ベッドへ転がす。
「土足…のまんまベッドは…」
「構わん。後で誰かが掃除する」
じたばたする足にこちらの足を絡ませ、肩口を押さえつけて体重を乗せると苗木は大人しくなった。
ボトムスのジッパーを下げて片手を差し込むと、小さな身体が強張る。
「…想像通りと言うか、お前の身体に見合った妥当なサイズだな」
「ちょっ…人を貶めるのが十神クンの言う見返り…?サイアクだ…」
「それこそ俺を貶めた言い方だな。褒めてやってるんだ、可愛らしいとでも言わないと判らないか?」
「いや、それ、全然嬉しくな…、っあ…」
指の腹で亀頭の側面をちょっと撫でてみると、苗木の顔が一瞬で赤くなった。
もう片方の手はパーカーの下に滑り込ませ、乳首を探し当てる。
「な、なんで、そんなとこっ…う、く、や、やだっ…」
「いや、お前は前からこうされるのが好きだろう?」
「前からって意味が…こんな事すんの、十神クンしか…あ…だから、やめろって…」
苗木は耳まで真っ赤にして弱々しく俺を拒否する。だが、本心から嫌っているわけではない。手足の力はすっかり抜けて、俺の手になされるがままだ。
「上も下もこんなに勃たせておいて言う台詞ではないな」
「あ…んぅ、そっちが触るから…」
「やれやれ。まだ判らないのか?」
苗木の細い腰に引っかかっているボトムスを乱暴に膝まで引き摺り下ろし、俺は自分の指先を舐め、彼のアヌスへと指を伸ばした。
「うわっ!馬鹿っ!何を…!」
「馬鹿とは何だ」
襞を指先でくすぐり、慎重に奥まったそこへ挿し込む。
「う、うわ、わあっ、な、なに…っ?」
「意外にすんなり入る。だろう?」
「ば、ばかっ、そ、そんなこと聞かれて…も…お、ぅあ…駄目だ…そこ…っ」
「身体は正直、とは良く言ったものだな」
「う、く、そこ…ぉ…だめ…変だ…ッ…そこぉ、お、指…ぃ…や…」
「何もかも初めての奴がこうなるか?ん?」
どうやら俺がここ数日考えていた仮説は当たったらしい。
声を上げて笑いたい気持ちを抑えつつ、ごりごりと前立腺を押し上げる。
「あ、あ、や、りょ、りょうほうは…無理っ…ぁ、」
「ん?両方とは何だ?具体的に言われないと判らん」
「む、胸と…下とぉ…りょーほー…だめぇ…」
どうやら、乳首を弄られつつ前立腺も責められるのに耐えきれないらしい。
「ああ、乳首を片方ずつ触るのは駄目だ、という事か」
「…!?ちが、そういういみじゃ、」
当然反論は無視だ。パーカーのジッパーを即座に下ろし、指だけで交互に弄っていた乳首に唇を寄せる。
「想像以上にお前は強欲だな。やはり交渉向きだ」
赤くぷちっと充血している乳首を吸い上げ、もう片方の乳首を指先でぎゅっと摘み、残った手でアヌスの熱い内壁を擦った瞬間、
「ひぁ、あああああーーーッ!!」
部屋中に響くヨガり声を上げて、達してしまった。
「早漏め」
「ぁ。あ…ぁ…あ…」
彼の息は荒く、視線は定まらず天井のあたりを彷徨っている。
「良かっただろう?この俺がこれだけ骨折ってやったのだから、今度はお前が俺に尽くせ」
「ぁ…?」
力なく開いた口から唾液が溢れているが、苗木はそれを拭う事もしない。
「放心するほど良かったか?」
「う…ぁ…」
埒があかない。
「まあいい。こちらで好きにさせてもらう」
ぐったりしているのを良い事に、靴だのパンツだの下着だのを手際良く脱がせて床に放り投げる。
枕を腰の下に押し込み、足をがばりと開かせた…あたりで、苗木がはっと我に返った。
「おうわー!?何してるん…もがっ」
素っ頓狂な雄叫びをすかさず唇で塞ぐ。
そして、突然のキスを気を取られている隙に、照明の下に晒されたアヌスへ俺のモノを突き立てた。
「うっぐ…!んんんんっ!」
「そら、こんなに楽に挿入ったぞ?ブランクが何日あるかは定かではないが…」
「っア…だからっ…ちが…ぁ…あっ、それぇ、それやぁっ…!ぁあっ…!」
「何が違うんだ?突く度にヨガってるのはお前だろう?久々に突っ込まれて悦んでいるようにしか見えんが」
耳元で囁いてみると、下半身がびくんと震えた。
腰を高く持ち上げ、ぐりぐりと前立腺を刺激すると、ぬめる内壁がペニスを奥へ奥へと取り込もうとうねる。
「はぁあっ…やぁ…っ」
「嫌だの駄目だのは聞き飽きた。感じているならそう言え」
「ふぁ…わ、わかんなっ…いッ…!」
苗木の白い肌は汗ばみ、呼吸はどんどん荒くなる。
「命令しないと判らないか?気持ちいい、とでも言えば良い」
尻肉を掴み、角度を付けて、いかにも責めて欲しそうに膨らんでいる前立腺目掛けて腰を打ち付けた。
「ひっ…ッ!イイっ…きもちいっ…十神く…っ!!!」
「う…。捜査に協力してって話が…なんでいつの間にこんな事に…」
ペットボトルの水を飲みながら手帳を見ていたら、シャワーを浴びた苗木がげっそりした顔でバスルームから出て来た。
「その場の快楽と引き換えに俺がお前の捜査に協力する。それだけの話だろう?ただし、」
「ただし?」
「快楽云々はあくまでも表面的な話だ。俺はもっと大きな見返りをお前に用意してやったつもりだ。運動性の記憶はそう簡単に忘れられるものではないからな。反復学習したものは特に。つまり、」
「え、いや、ちょっと、ボクに判らない言葉で説明されても」
「記憶には種類がある。体験した事象や知識を覚える分野と、動作や行動を身体で覚える分野はそれぞれ脳内で違う。お前は俺を既に知っていて、俺もお前を知っていた。つまりそういう事だ」
「…わかったような、わからないような…って、だからなんでそんな話になるんだ!だからさっきから言ってるけど、こんな変態な事されたのは今日が初めてで、その、」
「はあ。本当にお前は馬鹿だな。今がいつかも知らない」
「え、入学式の後くらい…じゃないの?くわしい日にちはともかく」
「もういい、沢山だ。じわじわと思い出させてやるから覚悟しろ」
バスタオルごと苗木を引っ張り、乱れたシーツの上に身体を転がす。
「たった今身体洗ったばっかっ…!」
「あの出歯亀盗撮クマを寝不足にさせてやる」
「…!い、いま思い出した…ボクら見られてる!?」
「良い事を思い出したな、褒めてやる。その方が燃えるぞ」
end.